ジャコモ・プッチーニ作曲 「蝶々夫人」Madama Butterfly(歌詞:イタリア語)vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(11)】
初  演:1904年2月17日 ミラノ・スカラ座
改訂初演:1904年5月28日 ブレシア テアトロ・グランデ

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ(つづき)

明治時代初頭の長崎
第3幕 蝶々さんの家 翌朝
待ちくたびれて眠り込んでしまった蝶々さんが目を覚まし、寝入ってしまった子どもを奥の部屋に運ぶ。
そこにシャープレスに連れられて、ピンカートンが現れる。彼にはもう一人の同伴者がいた。それはアメリカで結婚したケイト夫人だった。事情を察したスズキは、ピンカートンにどれだけ蝶々さんが帰りを待ち侘びていたことかを涙ながらに訴える。シャープレスにも諭されたピンカートンは、いたたまれなくなってアリア「さらば愛の巣」を歌い逃げ去る。
蝶々さんが出てきてピンカートンを探すが見当たらないので、泣いているスズキに事情を聞く。庭には外国人の女性の姿が。全てを察した蝶々さんは、子どもをシャープレスに託すことを伝え、みなを下がらせ仏間に座る。
そこに子どもが走り寄ってくる。子どもを抱きしめアリア「さようなら坊や」を歌う。そして子どもに目隠しをして見えないようにし、自分ののどに父の形見の短剣をつきたてる。遠くから「蝶々さん」と叫ぶピンカートンの声。蝶々さんは、子どもの方に手を伸ばしながら事切れる。

自選役

このオペラからは、蝶々夫人が静岡国際オペラコンクール第二次予選自選役リストに含まれています。

豆知識「日本をテーマとしたオペラは?」

カミーユ・サン=サーンス(1835-1921)の「黄色い王女」や、ピエトロ・マスカーニ(1863-1945)の「イリス」など、外国人が作曲した日本をテーマとしたオペラはいくつかあります。「黄色い王女」は、

「うつせみし 神に堪へねば
 離り居て 朝嘆く君
 放り居て わが恋ふる君
 玉ならば 手に巻き持ちて
 衣ならば 脱く時もなく
 わが恋ふる 君そ昨の夜
 夢に見えつる」
という、万葉集に出てくる天智天皇が崩御された時に詠われた長歌から始まります。この「黄色い王女」は日本をテーマにしたオペラの嚆矢と言われています。また「イリス」は、2016年に静岡県民オペラで取り上げました。「イリス」の日本初演には、静岡国際オペラコンクールの審査委員長を務める木村俊光先生が、バリトン役で出演されました。役名は「オーサカ」。テノール役は「キョート」。イリス初演の1898年当時の、日本についての知識はそんなものだったのでしょう。
静岡県民オペラ「イリス」プログラム表紙
静岡県民オペラ「イリス」プログラム表紙
しかし、「蝶々夫人」ほど、しっかりと「日本」を表現できているオペラは、他に無いような気がします。しかし海外で「蝶々夫人」を鑑賞すると、女性の着物の襟が逆(左前)だったり、畳の上を草履で歩いたり、日本人としては「ムムム!」と思ってしまう演出に出くわすことがあります。その点1957年9月にウィーン国立歌劇場でヨーゼフ・ギーレン(1890-1868)によって演出された「蝶々夫人」は、藤田嗣治(レオナール・フジタ1886-1968)の舞台美術だけあって、演出や衣装・装置に気を取られずに音楽に集中できた気がしました。その後393回上演され、ウィーンの「蝶々夫人」として定着していましたが、制作から60年以上になりますので、2020年9月からは新しい演出となってしまい、藤田の衣装や装置を観ることはできなくなってしまいました。

参考CD

参考CD(1)
蝶々夫人:レナータ・テバルディ
指揮:トゥリオ・セラフィン 他 1958年録音
先生が最初に聴いたのは、レナータ・テバルディ(1922-2004)の歌うCDです。こんなに色々な日本のメロディーが使われているなんて、と驚いたことを覚えています。イタリア・オペラ指揮の神様的存在だったトゥリオ・セラフィン(1878-1968)のツボを得た指揮も素晴らしいです。
テバルディCD
参考CD(2)
蝶々夫人:マリア・カラス
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン 他 1956年録音
カラスは、実際には舞台で演じなかった役の録音もあるのですが、蝶々夫人は1955年シカゴで演じています。当初2回公演の予定だったのですが、あまりにも観客が熱狂したため追加公演が行われたとか。このシカゴでの公演の演出を行ったのは、ヒジ・コイケという芸名で活躍した、小池寿子(1903-没年不明)でした。彼女は自身もアメリカなどで蝶々夫人を演じた歌手でした。カラスはこの後アリアを除いて「蝶々夫人」を演じることはありませんでした。この録音はシカゴ公演の翌年のもので、深く読み込み役に没入するカラスの絶唱を聴くことができます。
カラスCD
参考CD(3)
蝶々夫人:ミレッラ・フレーニ
指揮:ジュゼッペ・シノーポリ 他 (1987年録音)
イタリアの指揮者ジュゼッペ・シノーポリ(1946-2001)は、大学で心理学と脳外科を学ぶと同時に、別の大学で作曲を学び、その後、指揮を学んでいます。自作曲を指揮したCDもあり、独自の視点からの解釈は、熱狂的なファンがいるのと同時に、批判的な視聴者がいるのも事実です。先生も最初は嫌いな指揮者の1人でしたが、ある時を境に感覚が好転したことを覚えています。彼は2001年ベルリン・ドイツ・オペラでの「アイーダ」公演中(第3幕)に心臓発作で亡くなりました。このCDの蝶々夫人とピンカートンのコンビは、以前紹介したカラヤンの「アイーダ」の、アイーダとラダメスのコンビと同じです。フレーニは、芯の強い女性像を丁寧に描き出し、カレーラスは悩めるピンカートンを演じています。小松英典さん、片桐仁美さん、佐々木典子さんという3人の日本人の名前があるのも嬉しいところです。
フレーニCD