ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」 L’erisir d’amore (歌詞:イタリア語) vol.2

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(15)】
初演:1832年5月12日 ミラノ カノッビアーナ劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ(つづき)

スペイン・バスク地方の小村
結婚のイラスト
第2幕 第1場 アディーナの農場の内部
アディーナとベルコーレの結婚披露宴。ドゥルカマーラはアディーナと一緒に、ゴンドラ漕ぎの歌「私は金持ち、君は美人」を歌い、花を添える。公証人がやってきて結婚証明書にサインを求めるが、アディーナは夕方まで待ってもらう。
ネモリーノは、さらに妙薬を買うために金策に走る。そこへベルコーレが現れ、入隊すると大金が即金でもらえると教える。そこでネモリーノは兵隊になり大金を手にし、ベルコーレは恋敵を入隊させたと笑う、珍妙な二重唱「20スクード」

※「スクード」はお金の単位です。20スクードで1年暮らせたとか。
第2幕 第2場 村の広場 夕暮れ
そんな時にネモリーノの叔父さんが死んで遺産が転がり込んだことを知ったジャンネッタたち村娘は、みなネモリーノに熱い視線を送るようになる。ネモリーノはチヤホヤされるので、薬が効き始めたと喜ぶ。
ネモリーノのことを憎からず思っていたアディーナは、心中穏やかではない。ドゥルカマーラに相談した彼女は、自分に気に入られようと兵隊になってお金を手に入れたことを知り涙ぐむ。
二人が去ると、この様子を見ていたネモリーノは、アディーナの涙を見て、アリア「人知れぬ涙」を歌う。
アディーナはネモリーノの入隊契約書を買い戻し、アリア「受け取って」を歌い彼へ愛を告白する。こうして結ばれた二人を村人たちは祝福し、ドゥルカマーラをたたえる合唱のうちに幕となる。

自選役

このオペラからは、アディーナ、ネモリーノの2役が、静岡国際オペラコンクール二次予選自選役リストに含まれています。

豆知識「速筆ドニゼッティ」

ガエターノ・ドニゼッティ(1797-1848)は速筆として知られています。この「愛の妙薬」も構想から初演まで1ヶ月という短時間でした。というのもカノッビアーナ劇場からオペラの作曲を依頼されていた作曲家が、上演の1ヶ月前に突然それを放棄してしまいました。劇場の支配人は、速筆で知られたドニゼッティに泣きつきます。ドニゼッティは、こちらも速筆で知られた台本作家フェリーチェ・ロマーニ(1788-1865)に台本を1週間で書かせます。しかし一から台本を書くのが難しかったので、フランスの台本作家ウジェーヌ・スクリーブ(1791-1861)が、作曲家ダニエル=フランソワ=エスプリ・オベール(1782-1871)のために書いたオペラ「媚薬」(1831年初演)の台本を、イタリア語に翻訳したものを下敷きに仕上げました。その台本にドニゼッティは2週間で作曲したといわれています。こんな急ごしらえのオペラでしたが、結果は大成功。今日まで広く親しまれるオペラとなりました。
Gaetano Donizetti 1
ガエターノ・ドニゼッティ
Lisenced under public domain via Wikimedia Commons

参考CD

人気のあるオペラだけに、古くから多くの録音が存在しています。
参考CD(1)
指揮:フランチェスコ・モリナーリ=プラデッリ
アディーナ:ヒルデ・ギューデン 他(1955年録音)
先生の大好きなCDです。ヒルデ・ギューデン(1917-1988)は、ウィーンに生まれたソプラノです。ユダヤ系だったため、第二次世界大戦中はイタリアで歌っていました。戦後は長くウィーンで活躍し、ドイツ語のオペラやモーツァルトのオペラで定評がありました。イタリア系の歌手の中に1人ドイツ系の彼女。この微妙な違いが先生には気持ち良い。「地主の娘アディーナは、ドイツ系」と考えれば、全く違和感はありません。ドゥルカマーラのフェルナンド・コレナ(1916-1984)が、とても良い味を出していて、先生の中では、ドゥルカマーラ=コレナなんです。このオペラにはレチタティーヴォ(”レチタティーヴォ”についてはこちら)があります。その部分このCDでは、ピアノで演奏されています。
プラデッリCD
参考CD(2)
指揮:アルベルト・エレーデ
アディーナ:アルダ・ノニ 他(1959年録音)
もしかしたら、この演奏をお聴きになった方もいらっしゃるのではないでしょうか?これは、第2回イタリア歌劇団の公演のライヴ録音です。この公演は、海外の歌手と指揮者を招聘し、オーケストラや合唱は日本の団体を使用するものでした。オペラに慣れていない当時のNHK交響楽団の奮闘がよくわかります。イタリア人指揮者のアルベルト・エレーデ(1908-2001)は、イタリアのみならず、ドイツやアメリカなどでも活躍しました。ワーグナーの指揮でも定評があり、バイロイトでも指揮しています。この録音の白眉は、何と言ってもフェルッチョ・タリアヴィーニ(1913-1995)の歌うネモリーノでしょう。その甘い歌声は、60年の時を超えて、私たちの心を震わせます。レチタティーヴォは、ピアノのようです。
エレーデCD
参考CD(3)
指揮:ハインツ・ワルベルク
アディーナ:ルチア・ポップ 他(1981年録音)
ヴァイクル写真
ベルント・ヴァイクル
(第6・7回審査委員)
こちらも非イタリア系のアディーナです。ルチア・ポップ(1939-1993)は、魔笛のCDでご紹介しましたね。ウィーンのお隣ブラティスラヴァ出身の名ソプラノです。ベルコーレのベルント・ヴァイクルは、第6回・第7回のオペラコンクールで審査委員を務めていただきました。巨人のようなお体とは似つかわしくないチャーミングな人柄だったとのこと。ちょっと早めのテンポで、全体が演奏されています。レチタティーヴォは、チェンバロが使われています。
プラデッリCD
参考CD(4)
指揮:マルチェッロ・ヴィオッティ
アディーナ:マリエッラ・デヴィーア 他(1992年録音)
豪華すぎる配役です。マリエッラ・デヴィーアは、本当に完璧の人。同じドニゼッティのオペラでも、「ランメルモールのルチア」のルチアを完璧に歌うことのできる人。完璧の人のアディーナってどうなの?と思うなかれ。ちゃんと喜劇のヒロインを演じています。ロベルト・アラーニャにとって、このネモリーノはキャリアの初期の録音です。1990年には、「椿姫」のアルフレードを歌うために来日しています。初めはネモリーノのような軽い役を歌っていましたが、その後声の変化とともに、もう少し重たいテノールの役を歌うようになりました。しかしネモリーノには愛着があったのか、1996年に当時の奥さんと再録音し、映像も収録しています。指揮のマルチェッロ・ヴィオッティ(1954-2005)は、優れたオペラ指揮者として活躍しました。しかし2005年2月、ウィーン国立歌劇場の「ノルマ」初日公演の数日後、脳卒中に倒れ、50歳という若さで亡くなりました。先生は何度か彼の指揮するオペラを聴けたことを、本当に幸せだと思っています。レチタティーヴォは、初期のピアノであるフォルテピアノが使われているようです。
ヴィオッティCD