リヒャルト・ワーグナー作曲「ローエングリン」 Lohengrin(歌詞:ドイツ語) Vol.1

【ふじやまのぼる先生のオペラ解説(17)】
初演:1850年8月28日 ワイマール 宮廷劇場

主な登場人物

登場人物一覧

登場人物相関図

登場人物相関図

あらすじ

10世紀前半 アントワープ
第1幕 シュルデ河のほとり ※天国的な美しさを持った前奏曲で開始される。
第1幕 第1場
ブラバンド公国と呼ばれていたこの地。伝令が王の到着を告げ、皆が歓迎し付き従うことを表明する。ドイツ国王ハインリヒ・デア・フォーグラー(ハインリヒ1世)が現れ、「わが主なる神よ」を歌い、「東方遠征のための兵を募る」という訪問の目的を告げる。
ちょうどこのときブラバント公国は大公が死去し、娘エルザとその弟ゴットフリートが残されるという非常事態であった。公子二人の後見役だった伯爵テルラムントは、ドイツ国王に次のように訴えた。「エルザは弟を誘い森に出掛け、一人で戻ってきた。行方不明となった弟を殺したのはエルザ。私をエルザに替わりブラバントの領主にしてほしい。」と。テルラムントの妻オルトルートは、由緒あるラートボート家の出身であり、ブラバント公国の正統な後継者と言えるとも付け加える。
August von Heckel Lohengrin
August von Heckel, Public domain, via Wikimedia Commons
白鳥の騎士
第1幕 第2場
国王はエルザに、事の真相を問いただすが、エルザは質問には答えず、「一人寂しく悲しみの日々を送り(エルザの夢)」を歌い、自分を救ってくれる騎士の到来を語る。仕方なく国王は、一騎打ちの決闘で決着をつけるように命じる。伝令が、一騎打ちを受けて立つ者はいないかと問うが、我こそはという者はいない。エルザは、夢に出てきた「白鳥の騎士」を決闘の代理者に指名する。
第1幕 第3場
エルザが祈ると、白鳥の曳く小舟に乗った騎士が現れる。騎士は白鳥に「ありがとう、かわいい白鳥よ」と歌いかけ、白鳥に別れを告げる。騎士は、自分の名と素性を訊ねないならば戦おうと言い、エルザは承諾する。その騎士に脅威を抱いた皆が、テルラムントに戦いをやめるよう促すが、敢えてテルラムントは騎士と戦う。
一騎打ちの末、テルラムントは敗れ、エルザの容疑は晴れる。騎士はテルラムントを殺すことなく夫妻を放逐することにし、人々の騎士勝利の大合唱で幕となる。
第2幕 アントワープ城
第2幕 第1場
夜。命を助けらたテルラムントは、妻オルトルートとともに城外をさまよっている。オルトルートは、騎士が魔法の力を使っていると言い、体の一部でも切られれば魔力はなくなると夫をけしかけ、二人は復讐を誓う。
お城のイラスト
第2幕 第2場
エルザは城のバルコニーに出てきて、「そよ風よ」を歌う。オルトルートは、エルザに同情を買うように話しかける。エルザは、二人の赦免のため執り成すことを約束し、城内に消える。
オルトルートは「汚されたる神々よ!」を歌い、ヴォータンとフライアに復讐を祈願する。戻ってきたエルザは、明日の結婚式に出るようオルトルートを城内に導く。テルラムントは闇に消える。
第2幕 第3場
夜が明け、伝令がテルラムント追放を告げ、騎士にはブラバント大公就任を依頼したが辞退したので、これからは騎士のことを「ブラバントの守護者」と呼び、明日国王とともに遠征に出かけることを告げる。ブラバントの貴族の中には、関係のない遠い東方への遠征など馬鹿げていると思う四人が集まっている。その四人にテルラムントが近付き、反乱をそそのかす。四人は婚礼の列が近付いて来るのを見て、テルラムントをかくまう。
第2幕 第4場
「エルザの大聖堂への入場」の音楽(この音楽は吹奏楽などでもよく演奏される)に導かれ、エルザは婚礼のために礼拝堂へと向かう。オルトルートは、しおらしくエルザに付き従っていたが、突然「どこの誰とも分からない人を夫に迎えるなんて」と、エルザを混乱に陥れる。
第2幕 第5場
王と騎士が現れオルトルートを一蹴するが、今度はテルラムントが現れ、「決闘は妖術を使って勝ったに違いない、自分は騎士の名前を知る権利がある」と訴える。騎士は「答えるべき相手はエルザのみ」、と威厳を持って言う。婚礼を行う聖堂へと向かうエルザと騎士。

得な役ってあるの?

オペラのステージに立つことができる人は、ほんの一握り。なので得とか損とか言ってはいられません。どんな役でも、得だと思います。しかし、そんな中にも「得な役」ってあるんです。その1つが、この「ローエングリン」の中にあるのです。どの役だと思います?
それは、「王の伝令」なのです。ワーグナーのオペラは長大で、オーケストラも編成が大きく、歌手もある程度の声を出さないと、オーケストラに負けてしまいます。何しろステージと観客の間にオーケストラがいるのですから。しかし、この「王の伝令」の出番は、トランペットのファンファーレが鳴り響き、オーケストラが沈黙した後で歌い出すのです。そのため大声を張り上げなくても良いのです。出番はそんなに多くないですが、本当に得な役です。

豆知識「お尋ね者ワーグナー」

リヒャルト・ワーグナーのイラスト
リヒャルト・ワーグナー
ドイツでは、王権に代わる自由主義的改革運動1848年から始まり、各地に広がっていきました。1849年5月、ワーグナーのいたドレスデンでも革命が勃発、ワーグナーも身を投じますが、1週間で革命は鎮圧。その結果お尋ね者になり、ヨーロッパ各地を転々とし、援助者の手助けにより、スイスのチューリヒ亡命生活を送ることとなります。その後しばらくはドイツ国内に入ることが許されず、1850年のローエングリン初演に立ち会うことができませんでした。初演はフランツ・リスト(1811-1886)が指揮し、ワーグナーが初めて「ローエングリン」を聴いたのは、1861年ウィーンだったそうです。ドレスデンは、1862年に滞在許可を出しました。

自選役

このオペラからは、オルトルート、ローエングリン、フリードリヒ・フォン・テルラムントの3役が、静岡国際オペラコンクール2次予選自選役リストに含まれています。