アンダースタディとは? カバーキャストとは?

【ふじやまのぼる先生のオペラ講座(35)】
どちらも同じ意味ですが、オペラの現場では大切な役割りです。
「一人オペラ」もないことはないですが、オペラ公演に役付きの歌手がたくさん登場しますね。リハーサルには、本来出演する全員が揃って参加するのが望ましい。
しかし、他の用事があったり、体調の問題があったり、揃うことがかなわない場合もあります。誰かが来られないからといって、「じゃあ今日のリハーサルは中止にしましょう」などと悠長なことを言っていられません。そんな時に必要になってくるのが「アンダースタディ」や「カバーキャスト」です。
先日行われた「ペレアスとメリザンド」の配役表をご覧ください。
「ペレアスとメリザンド」の配役表
「ペレアスとメリザンド」配役表
真ん中少し下の線の下左側に「カヴァー」と書かれた人たちがいます。「カヴァー」も、「アンダースタディ」「カバーキャスト」と同じ意味です。この人たちの名前の後にかっこが付けられていて、かっこ内の役の人が来られない場合、代わりにその役を演じます。「カヴァー」の人であっても、その役を完璧に演じることができないといけません。別の公演では、カヴァーとは違う役でその公演に参加している人もいました。その場合は、本公演の役とカヴァーの役と両方演じることができないといけないのです。
オペラ歌手女性のイラスト
以前、当ブログ記事「オペラ歌手が歌えなくなったら、公演はどうなるの?」でご紹介しましたが、急遽の代役は、大抵、まずこの「アンダースタディ」や「カバーキャスト」の中から選ばれることになるのです。今回、ジュヌヴィエーヴ役の浜田理恵先生と、イニョルド役の九嶋香奈枝さんが急遽降板されたとき、代わりにそれらの役を演じたのは、他ならぬカヴァーの田村由貴絵さんと前川依子さんでした。「お客さまの中に、○○が歌えるテノールはいらっしゃいますか?」というのは、本当にまれなのです。また、2004年の映画「オペラ座の怪人」では、バレエダンサーのクリスティーヌが抜擢され、オペラのプリマを歌う設定でしたが、実際にはそんなことはありえないのです。
そんなわけで、「アンダースタディ」だからといって、いい加減にではなく、きちんと勉強してかなければなりません。以前は全く勉強せずに、「アンダースタディ」のお給料だけせしめる不届き者がいたとかいなかったとか。しかし急遽主役に抜擢され、突然未来が拓く、ということもあるのです。名テノールプラシド・ドミンゴメトロポリタン歌劇場にデビューしたのも、あるテノールの代役だったとか。
オペラ歌手男性のイラスト
「アンダースタディ」によるオペラ上演も、新国立劇場では時々企画されることがあります。また、今回の指揮者、大野和士さんによる作品解説の動画には、ペレアスの村上敏明さん、メリザンドの吉田珠代さんはじめとするカヴァーの方が歌い、コレペティトゥールの大木二葉さん、コンクール公式ピアノ伴奏者の石野真穂さんが伴奏を務められていました(ちょっと!大野さんしゃべりすぎ)。
【新国立劇場 New National Theatre Tokyo】公式YouTube
特別配信版 オペラ『ペレアスとメリザンド』オペラトーク

大野和士×村山則子×ジョジアーヌ・ピノン×川竹英克
https://www.youtube.com/watch?v=i06pWrV1WfI