東京二期会「平和の日」

【ふじやまのぼる先生のオペラ雑感(7)】
 先生が観に行ったオペラの雑感を綴っています。

《二期会創立70周年記念公演》
東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ Vol.5
リヒャルト・シュトラウス[日本初演]
オペラ「平和の日」
 

2023年4月8日(土曜日)17時開演
2023年4月9日(日曜日)14時開演
Bunkamuraオーチャードホール
「平和の日」プログラム表紙
「平和の日」配役表
行ってきました、「平和の日」。先生はリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の作品が大好きで、オペラも大好きなので、二日間ある公演に二日とも聴いてきました。「平和の日」というオペラについては、先日のブログでご紹介しましたので、ご覧くださればうれしいです。
「平和の日」Vol.1 (オペラコンクールブログ「トリッチ・トラッチ」より)
https://www.suac.ac.jp/opera/blog/2023/03/00180/
「平和の日」Vol.2 (オペラコンクールブログ「トリッチ・トラッチ」より)
https://www.suac.ac.jp/opera/blog/2023/03/00184/
この公演は、「セミ・ステージ形式」と銘打たれ、いつもはオーケストラピットで演奏しているオーケストラがステージ上に居並び、ステージの客席側に演技のできるスペースを設け、そこで演技を付けながら演奏するというもの。今回両日とも、この珍しいオペラを、歌手の皆さんは暗譜し、できる限りの演技を行っていました。
オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団で、日系の準・メルクルさんが指揮していました。最初の一音から、この不穏な時代の雰囲気を見事に醸し出し、75分あまりの、わりところころと変わる場面を、見事に描いていました。これは、メルクルの腕だと思います。先生がメルクルの指揮でオペラを聴いたのは、1995年12月、ウィーン国立歌劇場の「ラ・ボエーム」でした。若々しい指揮をする人だと思って聴いていて、カーテンコールでステージに上がった時、「あれ、日本人?」と思ってたのを覚えています。それからの活躍は皆さんもご存知の通り。新国立劇場の「トーキョー・リング」は、先生も忘れられない舞台の1つです。とにかく、CDでは聴くことのできない音が、くっきりと浮かび上がるさまは本当に素晴らしく、これだけを聴けただけでも嬉しい気分になれます。
歌手は、皆健闘していたと思います。こんな次はいつやるかもわからないオペラを暗譜し、演技を付けて歌うという情熱は本当に素晴らしい。中には「やってやろうじゃないか」と思って舞台に臨んだ方もいるかもしれません。
二回あるとどうしても比較されてしまいますが、どちらも良かったので、不満は全くありません。特に印象に残った方を上げるとすると、一日目の「司令官」を歌われた清水勇磨さんが、素晴らしかった。清水さんを聴くのは今回が三回目で、最初は「ばらの騎士」のファーニナル役ででした。その時は、あまり印象が強くなかったのですが、今回は本当に素晴らしく、押出しも強く存在感のあるバリトンで、今後の出演が楽しみです。それから、二日目の「狙撃兵」を歌われた岸浪愛学さん。かなり高音が続くメロディも美しく、また力強く歌われていました。岸浪さんは、2022年11月に東京交響楽団で行われたオペラ「サロメ」の公演で、ナザレ人で出演していたのですが、急遽準主役級の「ナラボート」を歌われ、絶賛を浴びていたのが記憶に新しいところです。
合唱は、オーケストラの後方、紗幕に隔たれた後ろで歌っていました。こちらは皆さん楽譜を見て歌っていました。その紗幕に、ストーリーの展開に合わせた映像が映し出され、鑑賞の一助となっていました。
この演目が上演されると発表になったのは、2021年11月のことでした。つまり、某国の暴挙が起こる前の事なのです。しかし、時宜を捉えた公演で、大きな感銘を与えたことは事実です。最終場面、両者の和解が成った後、マリアだけ舞台上に残り、男性陣は皆舞台裏に下がり、燕尾服に着替えて再登場します。後ろの紗幕には、まずドイツ語で「Frieden」、そして英語で「Peace」イタリア語で「Pace」日本語で「平和」、その後世界各国の言葉で「平和」を意味する言葉が投影され、最後ヨーロッパを俯瞰する地球が映し出され、それを歌手たちが見つめるところで幕となりました。昨年の「エドガール」に引き続き、音楽の役割がいかんなく発揮された公演でした。
東京二期会「エドガール」 (オペラコンクールブログ「トリッチ・トラッチ」より)
https://www.suac.ac.jp/opera/blog/2022/05/00120/
合唱団のイラスト