教育・研究

2023年02月08日

「日本文学史」にて都市伝説「きさらぎ駅」をテーマにした特別講義が行われました

文化政策学部国際文化学科専門科目「日本文学史」(担当:二本松康宏教授)にて、國學院大學文学部日本文学科の伊藤龍平教授をお招きして、浜松の遠州鉄道が舞台とされる都市伝説「きさらぎ駅」をテーマに特別講義が行われました。
講義をする國學院大學の伊藤教授
2000年代になりインターネットの普及により電子空間にも「民俗学」が生まれました。インターネット・フォークロア、略して「ネットロア」と呼ばれています。
今回の講師である伊藤先生は現代伝説とネットロアの第一人者。
特別講義では、伝承文学研究の見地から、現代の異郷訪問譚というべきネットロア「きさらぎ駅」について考察しました。
「日本文学史」特別講義の様子

「ネットロア」とは

古今東西、「異郷(ここではないどこか)」へ行くことをテーマにした物語は数多く、こうした物語を総称して「異郷訪問譚」と呼びます。
言葉の芸術「文学」のなかで、特定の作者を持たず集団の中で自然発生的に生まれた文学や作者が忘れられて伝わるものなどが「伝承文学」です。
伝承文学は大きく歌謡と説話の2つに分けられ、「ネットロア」は説話のなかの世間話に分類されます。ネットロアは内容よりも「伝わり方」がポイントだそうです。
「きさらぎ駅」に見られるモチーフ(話の要素)や話型(モチーフの配列によって物語化した言説)は古典文学や伝承文学に多く見られます。

現代の異郷訪問譚・都市伝説「きさらぎ駅」

都市伝説「きさらぎ駅」の発端は電子掲示板「2ちゃんねる」への書き込み。当時は実況中継的なつぶやきとそれに対するレスの数人のやりとりにすぎず、物語ではなかったものが、その後「まとめサイト」に2004年当時の応答が再録された結果、物語性が生まれ、スマートフォンの普及と相まって広く知られるようになったとのこと。書き込み主の「はすみ」が主人公と認識され、「終わってしまった出来事」の物語化が進みました。
今なお「きさらぎ駅」の話題や考察は絶えず、2022年には映画化され、関連イベントも開催されました。
異郷訪問譚としての「きさらぎ駅」と、「きさらぎ駅」をきっかけにその後発生した類似の「異界駅」伝承生成の背景には、インターネット技術の発展が大きくかかわっているそうです。

異郷訪問譚は昔から

異郷訪問譚は昔からあって、「桃太郎(海上へ)」「浦島太郎(水中へ)」「天人女房(羽衣伝説)(天上へ)」「おむすびころりん(地下へ)」「舌切り雀(山中へ)」など、「異郷訪問」をモチーフにしていたり、「異郷訪問譚」に分類し得る昔話は多くあり、そうした昔話には古典文学と対応する例も少なくないそうです。
「異郷」の隣接語彙に「他界(死後の世界)」「異界(外の世界・未知の領域)」「異国(よその国)」などがありますが、「きさらぎ駅」は「異界」の要素が強いようです。

「きさらぎ駅」の魅力

「きさらぎ駅」には鉄道怪談の側面もあります。日本で鉄道が初めて開通したのは明治初期ですが、江戸時代にはすでに鉄道の概念は伝わっていました。鉄道は西欧化・文明開化の象徴であり、そこから「異郷へ行く列車」「レールの先にある異郷」「異郷への入口としての駅」というイメージが形成されていきました。
現代の異郷訪問譚である「きさらぎ駅」は、異郷訪問譚の話型や鉄道怪談の系譜といった古さと、主人公の一人称語り、当時としては斬新な体験の実況中継、主人公が危機的状況に陥っているのにどうすることもできないというネット時代の身体感覚といった新しさを併せ持つことが魅力になっています。
実はそれぞれの独り言であって会話は成立していないのに、過去ログを見ると会話が成立しているように見える、そういった点もインターネットの特徴といえます。そして物語として成立しているから映画化が可能でした。
質疑応答では、「「きさらぎ駅」の応答が深夜だったことは話が盛り上がったのに関係あるのか」「「きさらぎ駅」の話はどこからが異界?」といった質問があり、伊藤先生は「きさらぎ駅」は乗車したときから異界だったと考えていて、当時はスマートフォンの普及前で深夜に1人でパソコンをのぞき込むことが多く、それが怪談に結びつきやすかったという時代の特色が表れているのではないか、と見解を示されました。

技術が生まれると新しい怪談が生まれる

外国との交流が開かれることによって「異国」の概念が生まれたり、鉄道の登場によって「鉄道怪談」が生まれたり、技術の発達が新しい怪談の創出につながってきました。ネットロアも同じで、インターネットやスマートフォンの普及によって次々と新しい都市伝説や怪談が生まれています。

現代の異郷は「ネット検索してもたどり着けない場所」「検索しても出てこない=存在しない場所」という思い込みにとらわれがちで、これはネットの対する万能感の裏返しといえます。またネットロアは古さを装うところがあり、それは古さに説得力やリアリティを感じるためとのことです。

GoogleストリートビューやZoomにまつわる怪談、LINEわらし、ジブリ映画、異世界エレベーターなど話題は広がり、伊藤先生はまだまだお話が尽きないご様子でした。
國學院大學の伊藤教授と本学の二本松教授
國學院大學の伊藤教授(左)と本学の二本松教授
ゲストにお招きした國學院大學の伊藤教授と本学の二本松教授は、先生方の先生の先生が同じという「いとこ弟子」の間柄だとか。質疑応答の最後には二本松先生からも声が上がり、お二人の対談のようになり大いに盛り上がりました。
國學院大學の授業でも「ネットロア」を取り上げることは少ないそうで、貴重なお話を伺える特別な時間となりました。

発行部署:企画室