在学生・卒業生の声Voices

自治体直営の文化施設
だからこそ出来ること

福島 梓 さんFUKUSHIMA Azusa
文化政策学部 芸術文化学科 2015年卒業
長久手市役所 くらし文化部 長久手市文化の家 事業係
福島梓さんの写真

地元長久手市職員として勤めて7年目。福祉関係の部署を6年担当した後、念願だった「長久手市文化の家」に配属となりました。長久手市は人口の約1%が芸術家というデータがあり、市内に愛知県立芸術大学があるなど、文化芸術には親しみのある街。2005年には「愛・地球博(日本国際博覧会、愛知万博)」が開催され、家から自転車で行ける距離にあった万博会場には何度も足を運びました。そこで育った私は、旅行や観光に興味があり、大学進学の際には観光を学べて、得意な地理科目を受験に活かせるところを探していました。なかなか志望校を決めきれずにいたところ、模試の結果で知ったのがSUACでした。進学先として芸術文化学科を考えたとき、家族に影響されてクラシック音楽や美術、舞台芸術などさまざまな文化芸術にふれる機会があったことをあらためて振り返ることに。観光も含めて文化芸術を幅広い視点から学べるカリキュラムがあるSUACに魅力を感じ、進学先に決めました。

大学に入学して2年間は文化芸術のコンテンツやそれらを取り巻く制度や取り組みについて、広く学びました。その中で出会ったのが松本茂章先生の授業。松本先生から国内各地のさまざまな事例を紹介していただく中で、それまで自分の中で漠然と抱いていた観光への興味が芸術祭などの取り組みと結びつき、文化芸術が「まちづくり」や「地域活性化」と結びついているという問題意識につながりました。もともと好きで行っていた旅行も、まちの雰囲気を知ることへと視点が変わっていき、より目的意識を持ったものになっていったと思います。今起こっている面白いことや自治体の取り組みをもっと知りたいと松本ゼミへの所属を決め、2年次後半から参加。ゼミ活動では学部生ながら学会のポスターセッションで発表したり、他大学とのインターゼミに参加したりと急にアカデミックな世界に足を踏み入れることに。最初は戸惑いましたが、さまざまな人たちと出会うことができ、良い経験になりました。ゼミ旅行で京都や奈良へ行き、自転車で巡ったり着物でそぞろ歩いたことも思い出深いです。

「長久手市文化の家」は、いわゆる自治体直営の文化施設。専門職員は数名いますが、私を含めたそれ以外の市職員は数年したら部署異動があります。その限られた時間の中で、今は多くの事業を企画し実現していくのが目標。決められた予算はありますが、調整次第で自分の企画が実現できます。配属1年目の今年度は講座や市民公募展などを担当しました。講座は恩師の松本先生をコーディネーターに招いたもので、ホスピタルアートや指定管理者制度がテーマ。SUACで文化政策を学んだ私だから実現できた企画といえます。オンライン配信のおかげで参加者は多岐にわたり、東北や九州からも申込みがあったのは嬉しかったですね。市民公募展は従来の方法を見直し、誰でも出品可能で無審査の展示会(アンデパンダン展)として市民に寄り添ったかたちでの開催を考えました。匿名で展示するのも敷居を低くする工夫のひとつです。幅広い年齢層から、個人やグループ、家族など、多彩な24作品が集まりました。この取り組みが市民にとって気軽に美術作品にふれたり制作したりするきっかけになったらと思います。

長久手市民がもっと身近に文化芸術を感じてほしい。それが一番の思いです。そのために愛知県立芸術大学の学生と連携したり、市民の家に眠る芸術作品を掘り起こす機会をつくったりと、今後の構想は広がります。自治体直営の文化施設だからこそ出来ることはまだまだあるはずです。松本先生に注目されるくらいの面白い取り組みを、と日々奮闘し、自治体職員として成長していきたいと思います。
内容は取材時(2022年1月)のものです。