イベントレポート

2022年12月07日

学生団体SIBが映画「Whole」上映会を開催しました

学生団体SIB(Students with International Backgrounds)と多文化・多言語教育研究センターが、映画上映会と座談会を開催しました。SIBは、本学に在学する定住外国人学生たちのグループで、当事者としての視点をふまえた多文化共生について考えるイベントを開催しています。
注:定住外国人とは、留学生ではなく、日本の高等学校等を卒業し大学に進学した学生のことを指します。ブラジルやコロンビア、フィリピン、朝鮮等にルーツを持ちます。
 
鑑賞した作品は『WHOLE(ホール)』。「ハーフ」と呼ばれる2人の青年が自身のアイデンティティを探し求める姿を描いた短編映画です。上映会では、参加者が作品を鑑賞した後、監督の川添ビイラル氏を迎え、映画製作に関するエピソードなどお話しいただきました。

川添ビイラル監督の製作エピソード

川添ビイラルさん

大学などで上映していただき、何度かトークもしたことがありますが、すべてオンラインでした。今回初めて学生の皆さんの目の前で話すので、緊張しています。

この映画を撮影したのは2018年。撮影する少し前から弟(川添ウスマンさん)が自身のアイデンティティについて葛藤を抱えていて、それを表現するための映画を撮りたいと言っていました。あまりこのようなテーマにフォーカスしている映画(劇映画)はなかったので、使命感を持って撮影しました。
脚本は弟が書き、自分たちの話だけでなく、社会に生きているミックスルーツの話をリサーチし、出来るだけ脚本に反映するようにしました。そのほかにも同様のテーマを扱っている本や映画をリサーチ。弟が森誠役として役作りをするようになってからは、自分が脚本をブラッシュアップしていきました。
製作費用はクラウドファンディングで調達。知り合いや友人の協力、様々なサポートがあってできた映画です。初めて製作する映画だったのですべてが「初めて」です。キャスティングでは春樹役がなかなか見つからず、ウェブで検索(検索ワードは「ハーフ」「俳優」)。サンディー海さんを見つけ、初めて会ったときに「この人だ」と思いました。

撮影は5日間。低予算だったため、朝から晩まで撮影し大変でした。撮影スタッフが頑張ってくれたと思います。神戸が舞台となっていますが、私自身が神戸生まれ、神戸育ち。東京以外でのミックスルーツ、マイノリティの姿を見せたかったという思いがあります。撮影が終わり編集には時間がかかりました。半年くらいかけて1時間以上の映像になってしまい、苦戦。その後、いろいろな方に見てもらい意見をいただくことで、最終的に45分に収めました。45分は見やすい、ドラマの1エピソードくらいだ、という意見もあり良かったです。

大阪アジアン映画祭ではじめて上映。たくさんの映画ファンに見ていただいたが、多くの方はハーフ、マイノリティではありません。海外の映画祭でも上映し、その際は鑑賞した方々が積極的に自分たちの経験を話してくれました。映画が会話のきっかけになったという声があり、よかったです。映画館での上映は視野に入ってなかったが、2021年に上映されることに。一般の方々に見てもらうことになり、嬉しいコメントをいただきました。私自身、この映画を作ってから、ミックスルーツやマイノリティの人と話すことがあり、学びがあり成長できたと思います。

参加者から川添監督への質問

質問:撮影しているときに表現しにくい感情はあったか。
回答(川添監督、以下同):自分たちが経験していることがほとんどだったので難しくなかったが、一方的にならないように考えた。そこだけを表現すると単なる「被害者」という印象になってしまう。

質問:マイノリティが弱者だといわれることについてどう思うか。
回答:社会では弱い立場というより、マジョリティの人がマイノリティを知っていないと思う。もっと理解をしていくといいと思う。

質問:春樹役を探すのに苦労したということだが、どういうところが難しかったのか。なぜサンディーさんに決めたのか。
脚本を書いた弟が自分をベースにして、誠役がはじめに出来上がった。誠と対照的な人物としてのキャラクターとして春樹がいる。誠と正反対で内に籠ってしまうようなタイプで繊細。細かな感情を表現できる俳優を探していた。サンディーさんの演技動画を見たとき、言葉に出来ないことを表現できる人だと思った。

質問:最後のシーンが後を引く。今後どうなっていくことを予想しているのか。
回答:脚本を書いていた時、もともとしっかり明確な結末があった。この映画で、自分のアイデンティティについて答えを出すのは違うと考えた。いろんなアイデンティティの向き合い方、生活スタイルがある。ポジティブに、観てくれた人たちに春樹と誠の将来を考えてほしいと思った。

質問:なぜアイデンティティについての映画をつくろうと思ったか。
回答:弟が撮りたいと言っていたのはおそらく、自分のアイデンティティや周囲のことをセンシティブにとらえていたからだと思う。それを何かで表現したいと思っていた。映画を撮った後、弟はその点は少し和らいだと思う。私は日本で生まれ育ち、流したり仕方ないと思ったりしていたが、逆に敏感になった。

質疑応答
質問:ハーフ、外国人についての映画は極めて少ないので、日本映画史として重要な作品と思う。川添さんにとってのハーフとは何か。東洋人のハーフは日本人に見られることもある。
回答:内面的な葛藤を考えて脚本を書いた。どういうミックスルーツの人物を登場させるかも考えた。自分に近い存在で、葛藤、思いを考えてもらうきっかけを作りたかった。ハーフという言葉を嫌う人もいるが、ミックスやダブルという言葉もある。しかし、言葉が重要ではないと思う。ハーフではなく「日本人です」と言うようにしている。

質問:映画を製作して勉強になったことや後悔などはあるか。
回答:作品を追求していくと、自分で観て良くないなと思ってしまうこともある。予算がなかった(70~80万)ので、5日間の撮影だった。春樹、誠を被害者として映画を撮りたくなかった。自然体の姿を撮影することを気を付けた。

質問:なぜ映画監督になろうと思ったのか。
もともと勉強が苦手だった。小学校6年生くらいのとき、メディアを学ぶ授業があり、初めてビデオカメラで撮影をやって自然と楽しめた。コミュニケーションツールとして良かった。

作品概要

wholeポスター

「WHOLE」

2019年(日本、カラー、44分)
配給宣伝:アルミード

監督・編集:川添ビイラル
脚本:川添ウスマン
プロデューサー:川添ウスマン、川添ビイラル

出演:サンディー海 川添ウスマン
   伊吹 葵 菊池明明 尾崎 紅 中山佳祐 松田顕生

ストーリー(公式Webサイトより)

ハーフの大学生、春樹(サンディー海)は親に相談せずに通っていた海外の大学を辞め、自分の居場所を見つける為、彼の生まれ故郷である日本に帰国する。
春樹は日本に着くやいなや周囲から違うものを見るような目に晒され、長年会っていなかった両親にも理解してもらえない。
ある日、春樹は団地に母親と二人で暮らす建設作業員のハーフの青年・誠(川添ウスマン)に出会う。「ハーフ」と呼ばれることを嫌い、「ダブル」と訂正する春樹と違って、誠はうまくやっているようにも見えるが、実は国籍も知らず会ったこともない父親と向き合うことができない葛藤を抱えていた。
様々な出来事を通して彼らは「HALF(半分)」から「WHOLE(全部)」になる旅を始める。

発行部署:教務・学生室