教育・研究
2025年04月10日
国際文化学科二本松ゼミ(伝承文学)の学生が編著した書籍『天竜くんまの昔ばなし』が刊行されました
文化政策学部国際文化学科の二本松康宏ゼミ(伝承文学)では、浜松市天竜区の中山間地域で昔話や伝説を採録し、書籍として刊行する活動に取り組んでいます。『水窪のむかしばなし』(2014年度)、『みさくぼの民話』(2015年度)、『みさくぼの伝説と昔話』(2016年度)、『たつやまの民話』(2017年度)、『春野のむかしばなし』(2018年度)、『春野の昔話と伝説』(2019年度)、『北遠の災害伝承―語り継がれたハザードマップ—』(2020年度)、『春野の山のふしぎな話』(2021年度)、『春野の民話』(2022年度)、『春野のむかし語り』(2023年度)に続き、2024年度の『天竜くんまの昔ばなし』で11冊目になりました。
今回の『天竜くんまの昔ばなし』を編纂したのは、二本松ゼミに所属する鈴木実咲さん、滝澤未来さん、服部奏さん、廣濵波貴さんの4名(いずれも文化政策学部4年)です。
2024年6月から2025年1月までに20回以上の調査を重ね、107名の語り手から昔話、伝説、世間話、言い伝えなど合計294話を採録。そのなかから精選された昔話29話、伝説25話、世間話16話、言い伝え20話、合計90話が「方言のまま」「語りのまま」に『天竜くんまの昔ばなし』に掲載されています。それぞれの集落の「伝承背景」を解説・考証した「地域解説」も学生たちの研究成果です。


4月10日には書籍を編纂した学生4名が浜松市役所を訪ね、中野祐介浜松市長に調査を報告し、献本しました。学生たちからは、語り手である熊の人々について、最初は忙しいので話をしている時間はないといわれることもあったが、徐々に信頼を深め、お昼ご飯をご馳走になったり、お土産をいただいたりするまでの関係を構築することができたこと、また、昔話には様々な思い出も含まれていること、後世へ残してほしいという思いを強く感じたことなどが述べられました。中野市長からは、今後の取り組みとして、熊小学校の児童たちとこの昔話を読んでみたらどうか、と提案をいただきました。
また、同日には横山俊夫学長にも調査を報告し、献本しました。学生たちからは調査の中での語り手とのエピソードについて語られ、横山学長は「不思議なご縁があったということだと思う。語り手の人生にもかかわる価値の高い実習だ」と活動を評価されました。学生たちは「どんなところへも行ってお話を伺うことが大事だと分かった」「語り手の人々が心の支えになった」「託された思い出や記憶を守らなければいけないと感じた」「語り手の遺産を受け継ぐ、とても光栄な仕事だった」と、それぞれの学びや思いを振り返りました。

二本松康宏教授からのコメント
地域に伝えられた「伝説」、家庭の中で語り継がれてきた「昔話」、身近なコミュニティのなかでまことしやかに語られた「世間話」、暮らしの中の「言い伝え」などは、いずれも本来は「民間口承文化財」と呼ばれるべき価値を持つものです。それは地域と家庭に受け継がれた「心と記憶の文化遺産」です。
近年の極端な高齢化と過疎化によって、その「心と記憶の文化遺産」は、いままさに消えつつあります。それは伝承や伝統が途絶えるというだけではなく、それを語り継いできた地域、家庭、コミュニティの断絶や消滅を意味します。
民話を採録するということは「暮らしの誇り」を記録するということです。ただ昔話や伝説を本にまとめるのではなく、その土地で暮らす人たちに「自分たちが語り継いできた話に、実はこんな意味があったのか」「自分たちが暮らすこの土地に、そんな背景があったんだ」と再認識していただけるような書籍の刊行を目指しました。
書籍情報

『天竜くんまの昔ばなし』
監修:二本松康宏
編著:鈴木実咲、滝澤未来、服部奏、廣濵波貴
発行:三弥井書店
発行日:2025年3月21日
ISBN 978-4-8382-3427-1
定価:1300円(税抜)
表紙画:川嶋結麻(本学国際文化学科卒業生)
書籍は全国の書店をはじめ、各オンラインショップで購入可能です。
発行部署:企画室